モノが売れないと言われるなか、共感や体験、自分ごと、ファンづくり・・・、商品ではなく「人」の気持ちや行動に焦点を当てた手法が、ここ数年のマーケティングのトレンドになっています。私も心理マーケティングや消費者行動などに興味があり、いくつか本を読んでいますが、最近出版された『「行動デザイン」の教科書』は、行動をベースにしたマーケティングについての考察を、わかりやすくまとめています。
マーケティング計画では、AIDMAモデルやパーチェスファネルがよく使われますが、認知や購入意向が増えたとしても、実際に購買までには必ずしも結びつかない落とし穴があるという見解が参考になりました。意識が行動に先行するのではなく、行動が人の意識に影響を与えることもある。
ほかにも、なぜ「生活者は自分が思うほど動かない」かという分析にも納得できることが多々ありました。
私が生活者として最近とくに感じるのは、買うことによって得られる喜びよりも、買うことによって生じるリスクやコストに非常に敏感になっているということ。価格だけでなく、手続きが必要な商品・サービスならスイッチングコスト、買い替えなら廃棄するときの手間や使えるのに捨てて良いの?という心理的負担、サポート登録で個人情報が漏洩しないか不安、モノが増えすぎて置くスペースがない…などなど。この負担を吹き飛ばすほど欲しいモノ、または無いと困るモノでないと財布の紐は簡単に緩みません。
著者も行動デザインを考えるうえで、生活者が感じるリスクやコストを重要視しています。
行動デザインを考えるうえで、動かそうとしている人たちはどれくらいのリスク感度を持っているか、なににリスクを感じているのかを理解することが極めて大切です。
生活者の5つのコスト「金銭的コスト・肉体的コスト・時間的コスト・頭脳的コスト・精神的コスト」についても理解することが必要と述べています。ネット通販などで金銭・肉体・時間はある程度低減させることができた一方で、情報を収集して処理するという情報コスト(頭脳的コスト)が目立ってきていると指摘しています。同じように感じている人は多いのではないでしょうか?
リスクやコストを下げることが行動デザインの鍵を握っているようです。興味のある方は読んでみてください。
難しい専門用語をあまり使わず、わかりやすい事例も入れて説明しているので、認知心理学や行動経済学の難しい本を読んで挫折するより、まずはこの本で全体を把握するのも良いと思います。もっと深く知りたくなれば、巻末の参考文献をいくつか読んでは? 私は、『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す』を読んでみようと思っています。